寒さと暮らす中で選んだ、冬の傑作アウター。

冬のアウターは着る人や過ごし方によって、ちょうどいい形が変わってきます。

北海道で冬を過ごす中で実際に着てきたものや、日常的に触れてきたアウターの中から、冬の装いとして無理なく向き合えるものをまとめました。

併せて、それぞれのブランドやプロダクトについて、僕自身(SHUZO)が実際に向き合ってきた中で感じたことや考えも率直な言葉で書き添えています。

この冬の装いを考える際の、ひとつの参考としてご覧いただけたら嬉しいです。

目次

NANGA

フィールドで磨かれ、日常に落とし込まれたダウン。

NANGAは滋賀県米原市を拠点とする、日本のダウンメーカー。
ダウンシュラフづくりで培ってきた知見を背景に、アウトドアフィールドから日常まで対応するダウン製品を展開しています。

羽毛にはヨーロッパ産のホワイトダックダウンやグースダウンを採用し、三重県の河田フェザーで洗浄・精製。
清浄度と保温性を重視した素材選定と、修理対応を前提としたアフターケア体制により、長く使い続けられるものづくりを行っています。

ピックアッププロダクト

AURORA-TEX(オーロラテックス)シリーズ

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NANGAの定番として支持され続けているのが、オーロラテックスシリーズ。
防水性と透湿性のバランスを考慮したオリジナル素材である、オーロラテックスを表地に使用し、雨や雪といった冬の天候変化にも対応する設計が特徴。

アウトドア由来の機能性を備えながら、過度な装飾を抑えたデザインにより、街でも無理なく着られるバランスに仕上げられています。
NANGAのものづくりを、最もわかりやすく体現しているシリーズと言えるでしょう。

SHUZOメモ

NANGAがこれだけ支持されている理由は大きく分けて二つあると思っています。
ひとつは、ダウンそのもののクオリティに対して、高い機能性と価格とのバランスをきちんと両立していること。
そしてもうひとつは、実際の用途や生活シーンに合わせて、自分に合う一着を選べるラインナップが揃っていることです。
その納得感の高さは数あるダウンブランドの中でも、やはり際立っていると感じています。

NANGA WHITE LABEL

寒さと向き合うために生まれた、最強ダウン。

日本の気象官署で観測された史上最低気温 −41.0℃ を記録した、北海道・旭川市。
NANGA WHITE LABELは、この地で暮らす僕たちが日常の装いとして着続けられることを前提に防寒性能を突き詰めるところから始まりました。

高い保温力を支えるのは900FP以上のハンガリー産シルバーグースダウンと、その性能を最大限に引き出すための充填量・パターン・素材設計。
数値や理論だけでなく、実際の生活動線の中でどう感じるかを繰り返し検証しています。

過酷な環境に対応する性能を備えながら、見た目はあくまでシンプル。
街に溶け込むバランスを崩さないことも、NANGA WHITE LABELが大切にしている要素です。

ピックアッププロダクト

最強ダウンシリーズ

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NANGA WHITE LABELの原点であり、象徴的な存在が最強ダウンシリーズ
高品質なダウンを贅沢に使用しながら、
充填量やパターンを細かく調整することで、
防寒性と動きやすさのバランスを突き詰めた設計が特徴です。

すべてのディテールは、寒さや長く着続けることを想定したもの。
それでいて外観は過度に主張せず、日常の装いに自然と馴染むバランスが意識されています。

極寒環境に対応する性能を備えながら、防寒具としてではなく、街着として成立すること
それが最強ダウンシリーズに共通する考え方です。

SHUZOメモ

初めてNANGA WHITE LABELを知ったのは学生時代でした。
「最強」と謳うそのダウンのクオリティの高さに惹かれたことを、今でも覚えています。
ただ、当時は学生ということもあり、正直なところ高嶺の花。
それから数年後、まさかスタッフとしてこのダウンに深く関わることになるとは、その頃は思いもしませんでした(笑)。
最初に袖を通したとき、ダウンの充填量に対しての軽さが尋常じゃないと強い衝撃を受けました。
ヴィンテージのダウンジャケットも着てきましたが、こうしたボリュームのあるものはどうしても重く、長時間着ると肩が凝ってしまうことも少なくなかった。
そういう意味ではダウンジャケットに対する自分の概念を覆された一着でもあります。
機能を徹底的に突き詰めながらも着たときの佇まいはきちんと街着としての装いに馴染む。
アウトドア由来のプロダクトを街で着ることが当たり前になった今でも、そうしたバランスを成立させているダウンは実際のところそう多くはないと感じています。

DESCENTE ALLTERRAIN

機能から導かれた、ジャパンプロダクトの完成形。

日本を代表するスポーツブランド DESCENTE が展開する、ハイパフォーマンスラインが ALLTERRAIN(オルテライン) です。

防水ダウンジャケット「水沢ダウン」に象徴される、熱圧着によるシームレス構造をはじめ、オリンピック公式ウェア、スキーウェア、消防団向けユニフォームなど、高度な技術と信頼性が求められるプロダクトを数多く手がけてきました。

ALLTERRAINという名称は「all(すべて)」と「terrain(地形)」を組み合わせた造語。
特定のシーンや年齢層に縛られず、トレンドにも左右されないものづくりを目指しています。

デザインの軸にあるのはForm follows function(形は機能に従う)
装飾性を排し、機能から必然的に導き出されたシンプルで研ぎ澄まされた造形が特徴です。

ピックアッププロダクト

水沢ダウンシリーズ

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ALLTERRAINを象徴する存在が水沢ダウンシリーズ
縫い目を極力なくしたシームレス構造により、防水性と防風性を高次元で両立しています。

すべては機能から逆算された設計で、シルエットやディテールは結果として生まれたもの。
主張を抑えた外観は、都市の風景にも自然に溶け込みます。

極寒環境への対応力を備えながら、あくまでスマートに着られること。
技術によって成立している街着、それが水沢ダウンシリーズの立ち位置です。

SHUZOメモ

MOONLOIDに入る前から、日本製ダウンのひとつの到達点として水沢ダウンの存在は知っていました。
実際に袖を通して感じるのは、とにかくスタイリッシュで完成度が高いということ。
派手さはありませんが、着たときの収まりがよく、細部まで一切の破綻がありません。
この一着には着た瞬間に納得してしまう完成度があります。
水沢ダウンという名前が、単なるブランドネームではないことが伝わってきます。

MODMNT

組み合わせることで完成する、ダウンウェア。

MODMNT(モドメント)は、NANGA が2025年秋冬シーズンよりスタートしたブランドです。
名称は「Module」「Mode」「Equipment」「Element」を組み合わせた造語 Modulement に由来しています。

デザインを手がけるのは、ニューヨークを拠点に活動する 鈴木 大器氏
NEPENTHES AMERICA の代表であり、1999年に ENGINEERED GARMENTS を設立。
2008年には CFDA にてベスト・ニューメンズウェアデザイナー賞を受賞しています。

MODMNTでは服を完成形としてではなく、部品や要素の集合体として捉え、レイヤリングや組み合わせによって成立する拡張性のあるウェアを提案しています。

ピックアッププロダクト

AVIATOR JACKET(アビエイタージャケット)

第二次世界大戦期のフライトジャケットをルーツに持つ、MA-1型ボマージャケットをベースに再構築した一着。

ミリタリー由来の合理的な構造に、アウトドアウェアのユーティリティ思想を掛け合わせ、MODMNTらしいハイブリッドな設計に仕上げられています。

難燃素材HINOCと高品質ダウンを採用し、街でもフィールドでも無理なく機能するバランス。
完成形としてではなく、着る人のスタイルによって成立していくダウンジャケットです。

SHUZOメモ

NANGA仕込みのスペックは申し分なく、街着としてだけでなく、アウトドアのフィールドでも十分に頼れる仕様です。
防寒性や素材選びといった土台がしっかりしているからこそ、日常の中でも安心して着られるのだと思います。
そのうえで、鈴木大器氏が手がけていた頃のENGINEERED GARMENTS を思わせるギミックの効いたデザインや空気感がしっかりと感じられる。
往年のEGファンはもちろん、これをきっかけにデザイナー鈴木大器の一端に触れてみるのも面白いと思います。

Rocky Mountain Featherbed

クラシックを現在進行形で着る、ダウンウェア。

Rocky Mountain Featherbedは、1960年代後半にアメリカ・ワイオミング州ジャクソンホールで誕生したアウトドアブランド。
創業者カブ・シェーファーは、ネイティブアメリカンのレザーケープに着想を得て、一枚革のウエスタンヨークを備えた独自のダウンウェアを生み出しました。

1980年代後半に一度姿を消しますが、日本の 35SUMMERS によって商標が取得され、2005年に復活。
オリジナルの思想を尊重しながら、現代の素材と技術を融合させたプロダクトで再び高い評価を得ています。

ピックアッププロダクト

CHRISTY JACKET for MOONLOID

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象徴的なウエスタンヨークには、茶芯仕上げのホースハイドを使用。
着込むことで艶や皺が現れ、芯の色が覗く革は当時の空気感を想起させながら、確かな存在感を放ちます。
襟にはムートンを配し、中綿にはダウンを封入。
クラシックな佇まいと、実用的な防寒性を両立しています。

オールレザーが特注品だった時代に、「もし量産されていたなら」という発想のもと再構築されたナイロン×レザーのコンビネーション。
これは史実ではありませんが、ブランドの哲学と背景に敬意を払った“もうひとつの1960年代”です。

SHUZOメモ

「もしも」を形にする、MOONLOIDのファントムアーカイブ。
史実には存在しないけれど、そういう世界線もあり得たかもしれないと、不思議と自然に納得してしまう。
そんなコンセプトに心を掴まれます。
着込んでいくことで、ヨークに使われた馬革にはシワや擦れが入り、そこから少しずつ茶芯が覗いてくる。
気がつけば、その人らしさが滲み出た一着へと変わっていく。
このジャケットは買った瞬間に完成するものではありません。
着続けることで、少しずつ100%になっていく。
そういう付き合い方が、とてもよく似合う一着だと思っています。

Alpha Industries

ミリタリーの合理性を、街へ。

Alpha Industriesは、1959年にアメリカ・テネシー州で設立されたミリタリーブランド。
アメリカ国防総省に正式に納入するコントラクターとして、MA-1やN-3B、M-65など、米軍を象徴するフライトジャケットやフィールドウェアを数多く手がけてきました。

軍用衣料として培われた、機能性と耐久性。
その実用精神は、現在のタウンユース向けプロダクトにも一貫して受け継がれています。

ピックアッププロダクト

B-15 FLIGHT JACKET【MOONLOID別注】

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B-15は1940年代に米陸軍航空隊のために開発されたフライトジャケットで、のちのMA-1へとつながる原点的なモデルです。

本作は、そのB-15に敬意を払いながらAlpha Industriesと協業し、MOONLOIDの視点で再構築した別注モデル。
当時の思想である「用途と機能の一致」を軸にしつつ、現代の街着として成立するバランスを追求しています。

高密度に織り上げたフライトナイロンを使用し、ミリタリー由来の堅牢さと、上品な質感を両立。
不要なディテールを削ぎ落とすことで、B-15の輪郭をよりクリーンに引き立てています。

SHUZOメモ

ミルスペックに裏打ちされたディテールは非常に合理的で、莫大な国家予算が投じられてきた理由にも納得します。
それは、ミリタリーウェアの大きな魅力のひとつです。
一方で、現代の僕らが街着として着るには少し過剰だったり、必要のない要素も少なくありません。
そういう意味で、このB-15はとてもソリッドな表情に整えられている。
ミリタリーやアメカジ好きだけでなく、普段そうした服を選ばない人にも手に取ってもらいたい一着だと思います。

PAY DAY

働くための服が持つ、合理性と温もり。

PAY DAYは、1922年にアメリカの大手小売チェーン J.C. Penney がスタートさせたワークウェアブランド。
「給料日」を意味するその名の通り、働く人が日常で安心して着られる実用的でタフな服づくりを目的としていました。

デニムカバーオールやオーバーオールを中心に堅牢な縫製と無駄のないディテールで支持を集め、現在では日本で企画・生産されながら、往年のアメリカンワークウェアの魅力を伝える存在として再評価されています。

ピックアッププロダクト

40S WWII BLANKET LINED COVERALL【MOONLOID別注】

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1940年代のいわゆる“大戦モデル”をベースに、
MOONLOID別注として仕立てた特別仕様のカバーオールです。

資材統制下で簡素化された当時のワークウェアに、「もしも冬用が密かに作られていたら」という想像を重ね、ブランケット裏地とチェンジボタンを組み合わせています。
史実には存在しない仕様ですが、当時の背景や合理性を踏まえた、あり得たかもしれない一着として再構築しました。

デニムには大戦期のデッドストックに近い表情を持つ11oz生地を採用。
ラグランスリーブや簡略化された縫製など、PAY DAYらしい実用本位の設計も踏襲しています。
防寒性を備えながら、ワークウェアとしての佇まいを崩さない別注モデルです。

SHUZOメモ

ヴィンテージ界隈では近年ブランケット付きかどうか以前に、カバーオールそのものが簡単に手の届く存在ではなくなっています。
僕自身カバーオールは好きですが、僕らの住む北海道で一枚のアウターとして着るなら、裏地なしでは正直なところ心もとない。
そう考えると、ブランケット裏地はやはり必須だと思います。
古き良き構造を踏襲しながらも、単なるヴィンテージの焼き直しではない。
ファントムアーカイブらしい解釈が、この別注にはしっかりと込められていると感じます。
ファッションとして楽しむのはもちろん、実際にワークウェアとして、直しを加えながらボロボロになるまで着倒すのもかっこいい一着だと思います。

ANATOMICA

身体に沿って完成する、普遍のコート。

ANATOMICAは、1994年にフランス・パリでピエール・フルニエ氏によって創設されたブランドです。
セレクトショップ文化の黎明期から、ミリタリーやデニム、クラシックウェアなど、時代を超えて残る「本物」を見極めてきた審美眼がプロダクトの根幹にあります。

流行に左右されない普遍性と、人体構造に基づいたアナトミカルなフィッティング。
幾度もの修正を重ねながら完成度を高めるその姿勢は、ANATOMICAのすべてのプロダクトに共通しています。

ピックアッププロダクト

SINGLE RAGLAN COAT 1

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ANATOMICAを象徴するモデルが、SINGLE RAGLAN COAT
1960年代以降のバルマカーンコートをベースに、独自の解釈で再構築された一着です。

最大の特徴は袖を一枚の生地で仕立てた、ワンピースシングルラグラン構造。
肩の縫い目を持たないことで体型を選ばず、ジャケットの上から羽織っても美しいシルエットが崩れない。

高密度に織り上げたコットンギャバジンは、角度によって表情を変えるタマムシ調の光沢を持ち、薬剤加工に頼らない高い撥水性も備えています。
街でも、天候の変わりやすい環境でも、無理なく着続けられるオーバーコートです。

SHUZOメモ

ピエールのように、いつかこのコートを自然とかっこよく着こなせる大人になりたい。
MOONLOIDに入る前から、そんな憧れを抱き続けている一着です。
ライナー付きではありませんが、高い撥水性と防風性があるので、インナーを工夫すれば真冬でも問題なく羽織れます。
サンプリング元であるBurberrysの一枚袖バルマカーンも魅力的ですが、このシルエットはやはりANATOMICAにしか出せないと思っています。
男性はもちろん、女性にもおすすめしたいコートです。


寒さにどう向き合うかは、人それぞれです。
だからこそ、アウターにも正解はひとつではありません。

僕らが北海道で冬を過ごす中で大切にしているのは日常の中で使いやすく、ちょうどいいと感じられること。
それでいて、着ると少し気分が上がり、毎日が楽しくなること。

今回の特集では、そんな感覚を大切にしながらアイテムを選びました。
機能や背景、そして佇まい。
それぞれの違いを楽しみながら、自分にとっての一着に出会っていただけたら幸いです。


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