
第二次世界大戦の最中、アメリカでは多くの工場が軍需生産へと転換し、衣料の世界にも厳しい資材統制が敷かれていました。
そんな時代に人々の暮らしを支え続けたのが、ワークウェアブランド〈PAY DAY(ペイデイ)〉です。
MOONLOIDが今回手掛けたのは、その40年代“大戦モデル”をベースにした特別仕様。
「もしも当時、暖かなブランケット裏地を備えたモデルが存在していたなら――」
そんな想像から生まれた、実在しなかった“もうひとつの大戦モデル”です。
このように、史実には残されなかった「あり得たかもしれない一着」を現代に再構築する試みを、私たちは 〈Phantom Archive(ファントムアーカイヴ)〉 と名づけました。
PAY DAYの別注モデルは、その思想を体現するプロジェクトのひとつとして位置づけています。
PAY DAYとは

〈PAY DAY(ペイデイ)〉は、アメリカの大手小売チェーン〈J.C. Penney(ジェイシーペニー)〉が1922年に立ち上げたプライベートブランドのワークウェアです。

J.C.PENNEY
その名が示す通り「給料日」を意味し、働く人々が自分の手で稼いだお金で良い服を手に取れるように、という願いが込められていました。
当時のPAY DAYはデニムカバーオールやオーバーオールなどのワークウェアを中心に展開し、確かな縫製と実用本位のディテールで多くの労働者に支持されていました。
中でも象徴的だったのが、ワークウェアとしては珍しいラグランスリーブ仕様のカバーオールです。
肩まわりの動きやすさを重視したそのパターンは、現場で働く人々にとって大きな利点であり、同時にPAY DAYの独自性を際立たせる特徴となりました。

一般的にワークウェアはセットインスリーブが主流だったので、当時としてはかなり珍しい仕様。
さらに、トリプルステッチによる堅牢な縫製(上の画像は大戦モデルなのでダブルステッチ)や、耐久性に優れたデニム・ヒッコリー生地の採用など、どのディテールにも“働く人のため”という明確な意図が宿っています。
その誠実なものづくりの姿勢はアメリカンワークウェアの象徴として、今なおヴィンテージファンから高く評価されています。
現在PAY DAYは日本国内で企画・生産が行われ、往年のディテールを継承しながらも、現代の生活に馴染むワークウェアとして再評価されています。
時代が変わっても、「働く人のための服」という理念は変わることなく受け継がれています。
今回の別注について
今回の〈PAY DAY〉別注は、実在のアーカイブを忠実に再現するのではなく、
“もしも当時、こうした一着が存在していたなら”という想像を起点に構想されました。
1940年代、アメリカでは第二次世界大戦の影響により物資統制が行われ、
ボタンやリベット、糸、生地に至るまで、あらゆる素材が節約の対象となりました。
ワークウェアも例外ではなく、既存のモデルは次々と簡素化された “WWIIモデル(大戦モデル)” へと姿を変えていきます。
その時代背景を正確に踏まえながらも〈J.C. Penney〉創業者ジェームズ・キャッシュ・ペニーが「働く人々に誇りと温もりを届けたい」と願った精神を、現代のものづくりに重ね合わせました。
「もしも彼が、資材統制下においても労働者を想い、密かに防寒性を高めた一着を仕立てていたとしたら――」
そんな空想をもとに生まれたのが、今回のカバーオールとエンジニアジャケットです。

実在のアーカイブには存在しない「ブランケット裏地」や「黒ラッカー塗装のチェンジボタン」を加え、
大戦期の合理性を踏まえながら、リアリティのある“架空の史実”として再構築しました。


この別注は史実と空想のあいだを縫い合わせ、
当時の空気感や思想を現代に蘇らせる 〈Phantom Archive(ファントムアーカイヴ)〉 シリーズの一作です。
空想のストーリー
1940年代の冬、戦時下のアメリカ。
物資統制により生産の自由が奪われる中でも、〈PAY DAY〉の工場では休むことなくミシンの音が響いていました。
軍需優先の時代にあっても、日々の仕事に汗を流す労働者たちにとって作業着は誇りそのものだったのです。

1940年代当時のワーカー
そんな折、現場の職人や卸先から「防寒性のあるワークウェアを」という声が上がります。
しかし、ウールも金属も統制下。暖かい生地もボタンも思うように確保できない。
それでも創業者のジェームズ・キャッシュ・ペニーは、
“働く人々のために、できる限りの温もりを”と願い、密かな決断を下しました。

創業者
James Cash Penney
倉庫の奥に眠っていた金色のチェンジボタン。
戦前の在庫として使われずに残っていたそれを黒ラッカーで塗装し、
軍需規格に沿う“黒い大戦仕様”として再利用することを思いつきます。
戦後には塗装を剥がし、再びPAY DAYの名を刻んだ金色の輝きを取り戻せるように――。
そんな希望も込められていました。
さらに、工場の隅で埃をかぶっていたウールブランケットを裏地に流用し、
当時の生地を活かした特別な冬用ワークジャケットが密かに仕立てられた。
給料日、完成したそのジャケットは〈PAY DAY〉の名にふさわしく、
賃金とともに工場の仲間へと手渡された――。
それは公式記録には残らない、小さな“幻のアーカイブ”の物語。
ディテール解説
デニムカバーオール

カバーオールは写真の40年代、ヴィンテージ“大戦モデル”をベースに再構築したMOONLOID別注仕様です。
フロントはフラップを省いた簡素な2ポケット構成。資材統制下での合理性を意識した、
ミニマルでありながらワークウェアらしい力強さを感じるデザインとなっています。

デニムにはヴィンテージの大戦モデル・デッドストックに限りなく近い質感を持つ11ozの生地を採用。

この素材は〈PAY DAY〉の中でも職人が丸縫いで仕上げるSPECIAL PRODUCTS LINEにのみ使用される特別仕様です。
ネップ感のある粗野な表情は着込むほどに立体的なシボが現れ、
当時の空気を宿したような経年変化を楽しめます。
縫製は大戦期の簡略化を踏襲し、トリプルではなくダブルステッチ仕立て。

裏地のブランケットには、当時アメリカのストアブランドで広く採用されていた汎用的なウールブランケットを採用しています。

ブランケット下はLeeの初期ストームライダーに見られる“ふらし仕立て”とし、
縮率計算を必要としない古き良き構造を再現しました。

アームは〈PAY DAY〉らしいラグランスリーブ仕様。
肩の可動域を広く取りながら、自然な丸みを描くシルエットに仕上げています。


そして、黒ラッカー塗装を施したチェンジボタンが、今回の別注の象徴的なディテールとなっています。



エンジニアジャケット

エンジニアジャケットも同様に写真の40年代、ヴィンテージ“大戦モデル”をベースに再構築。
素材には9ozのライトオンスヒッコリー生地を使用。

資材統制下を思わせる軽快な質感でありながら、適度なハリを備えたリアルな表情が特徴です。
ワークウェアとしての耐久性を確保しつつ、現代的な着やすさも兼ね備えています。
フロントは3ポケット仕様で、すべてフラップを省いた簡素なつくり。

ヒッコリーストライプの柄合わせをせず、生地を逆使いすることで作業効率を優先する――
そんな“もし大戦モデルが存在していたら”という仮説を、デザインとして具現化しました。

縫製はカバーオールと同様にダブルステッチ仕立て。
裾は端から中央にかけて鋭角に下がるカッティングとし、しゃがんだ際にも干渉しにくい構造に。
ノーカラーの短丈シルエットが、エンジニアジャケットらしい機能性と軽快さを演出します。

裏地には、カバーオール同様の汎用的なブランケット生地を使用。

当時のリアルワークウェアに存在しなかった“ブランケット付きの大戦モデル”という、
もしものアーカイブを体現する仕様です。

黒ラッカー塗装のチェンジボタンが、
戦時下の空気を纏いながらも希望を託したディテールとして、この一着に確かな物語性を与えています。



記録されなかった物語


記録には残らなかった、もうひとつのワークウェアの物語。
MOONLOIDが手掛けた〈PAY DAY〉のカバーオールとエンジニアジャケットは、
そんな“もしも”のアーカイブを形にしたプロジェクト「Phantom Archive(ファントムアーカイヴ)」の一環として生まれました。
存在しなかったはずの大戦期モデルに、当時の空気と創業者の想いを重ね、
リアルな素材とディテールで再構築する。
その想像の中に、かつて確かに存在した「作る人」「着る人」「守る人」の姿を映し出すこと――
それこそが、この別注シリーズの本質です。
黒ラッカーのチェンジボタンに込められた願い。
ブランケットの温もりが語る、人の手の仕事。
それらはすべて、〈PAY DAY〉というブランドが持つ“働く人への敬意”の延長線上にあります。
MOONLOIDが描く「Phantom Archive」は、
過去を再現するためのものでも、未来を理想化するためのものでもありません。
想像のなかに、もう一つのアーカイブを築く試みです。
そして今回の〈PAY DAY〉別注は、
このPhantom Archiveという構想を現実のものとして具現化してくださった〈PAY DAY〉に敬意を表し、
私たちにとって、これから先も長く大切にしていきたいプロダクトとなりました。

PAY DAY
MOONLOID EXCLUSIVE 40S WWII BLANKET LINED COVERALL
¥47,300(税込)

PAY DAY
MOONLOID EXCLUSIVE 40S WWII BLANKET LINED ENGINEER JACKET
¥44,000(税込)
fujimori
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